循環器内科

循環器内科とは

循環器は血液の循環に関わる臓器である心臓と血管(動脈と静脈)を指します。循環器内科は、特に心臓と比較的大きな血管に関係した病気を専門とする内科です。

循環器内科を受診する場合の症状(こんな症状の時は受診をお勧めします)

症状 考えられる循環器の病気
胸痛 狭心症急性心筋梗塞大動脈瘤・大動脈解離肺血栓塞栓症心臓弁膜症肺高血圧症
背部痛 大動脈瘤・大動脈解離
動悸 心不全心臓弁膜症不整脈
労作時の息切れ、呼吸困難感 心不全心臓弁膜症肺血栓塞栓症狭心症肺高血圧症
手足のむくみ(浮腫) 心不全心臓弁膜症深部静脈血栓症肺高血圧症
手足の冷感、歩行時の足の痛み 閉塞性動脈硬化症
ふらつき 不整脈心臓弁膜症肺高血圧症、起立性低血圧
意識消失(失神) 不整脈心臓弁膜症狭心症急性心筋梗塞肺高血圧症大動脈解離、神経調節性失神
※循環器内科の受診が勧められる健診の異常:心雑音、心臓肥大、心電図異常

循環器内科で対応する主な症状と病気

心不全

心臓の機能が低下し、体が必要とする十分な血液を送り出せなくなったり、心臓に帰ってくる血液が滞ったりする状態であり、経過とともに徐々に進行し死に至る病気です。心不全には突然発症する場合(急性心不全)と、すぐに症状が出ずに徐々に心臓が弱り発症する場合(慢性心不全)があります。

原因

狭心症、心筋梗塞、心臓弁膜症、心臓の炎症(心筋炎)、心筋症、高血圧、不整脈、などの様々な病気が原因となります。

症状

  • 易疲労感、労作時の息切れ、呼吸困難感、手足のむくみ、などが見られます。
  • 不整脈や突然の心停止などをきたす場合もあります。
  • 肝機能障害や腎機能障害などの血液の異常が見られる場合もあります。

診断

診察所見、血液検査(BNP、NT-proBNP)、レントゲン検査、心電図、心エコー検査、などにより総合的に診断します。

治療

基本的に心臓の機能の低下の原因となっている病気を特定し治療を行います。心臓の機能が回復していない時期や回復しない場合、根本的な治療法がない場合には、薬物療法により症状の改善を試みます。薬物治療による治療が難しい重症の心不全では、心臓の動きのズレを補正する心臓ペースメーカー(両心室ペーシング)や、適応があれば心臓移植を検討します。

心臓弁膜症

心臓には4つの弁(大動脈弁、僧帽弁、三尖弁、肺動脈弁)があり、鼓動の度に開閉して血液が前方へ送られています。心臓弁膜症は、これらの弁のいずれかに異常がおこり心臓の血液を送るポンプの働きに問題が生じる病気です。
心臓弁膜症には、弁が漏れる場合(閉鎖不全)、狭くなる場合(狭窄)、その両方が同時に起こる場合(狭窄兼閉鎖不全)があります。

原因

先天性のもの、加齢によるもの、感染症によるもの、などが原因です。

症状

  • 多くの場合、最初の症状は易疲労感です。
  • 気が遠くなったり、意識を失ったり、呼吸困難感や胸痛、動悸を自覚することもあります。
  • 症状がなく、健診で心臓肥大や心雑音で気付かれる場合もあります。

診断

聴診所見、レントゲン検査、心電図、心エコー、などで診断します。

治療

重症度が軽い場合、お薬で症状を改善したり悪化を予防したりすることが可能です。
ある程度以上の重症度となった場合には、カテーテルによる手術や開胸手術(弁置換術や弁形成術)を検討します。

不整脈

安静時の正常の脈は規則的に1分間に50〜100回打っています。脈が不規則にうったり、非常に遅かったり(徐脈性不整脈)、非常に速かったり(頻脈性不整脈)する状態が不整脈です。

原因

狭心症、心筋梗塞、心臓弁膜症、心不全、先天性心疾患、甲状腺機能異常、肺疾患、など原因は様々です。加齢や体質、ストレス、睡眠不足、疲労、カフェインの過剰接種、などにより起こりやすくなります。

症状

  • 動悸(脈が飛ぶ、ドキドキする)、息切れ、めまい、意識消失、などが見られます。
  • 全く自覚症状のない方もいらっしゃいます。
  • 脳卒中や心不全、突然の心停止で見つかる場合があります。

診断

安静時心電図、長時間(24時間)心電図で診断します。

治療

不整脈の種類により治療が異なります。
危険性が低い不整脈
症状が軽い場合、無投薬で経過観察します。症状がひどい場合には、生活習慣の改善の指導や不整脈を抑えるお薬の内服を行います。
徐脈性不整脈
症状がある場合や危険性の高い不整脈では、永久ペースメーカー植込み術を実施します。
頻脈性不整脈
薬物療法も行われますが、多くの頻脈性不整脈でカテーテルによる治療(心臓カテーテルアブレーション)が可能です。また、命の危険性の高い頻脈性不整脈の場合、埋め込み型の電気ショックの機械(除細動器)の植込み術が行われます。
心房細動
脳卒中の予防目的で血をサラサラにするお薬を内服します(抗凝固療法)。また、心房細動自体の治療として、正常の脈に戻すリズムコントロール治療と戻さずにみるレートコントロール治療があります。リズムコントロール治療では薬物治療もなされますが持続効果や副作用の点から、現在では心臓カテーテルアブレーションによる治療が広く行われています。

狭心症

心臓を栄養する血管(冠動脈)が狭くなることで血液の流れが悪くなり、心臓が必要とする酸素が不足して短時間の胸の痛みや圧迫感を自覚する病気です。

原因

主な原因は動脈硬化です。

症状

  • 胸の痛み、胸の圧迫感のほか、左肩や腕、首、顎、歯などのしめつけ感、息切れ、などを感じる場合もあります。症状は安静により数分から長くても15分程度で治ります。
  • 高齢者や糖尿病の方では、症状がでないことがあります(無症候性心筋虚血)。
  • 狭心症には大きく3つのタイプがあり、それぞれで症状の出方と治療法が異なります。
労作性狭心症
動脈硬化により血管が狭くなるタイプです。
症状の出方
狭心症の症状が主に動いた時に起こります。
診断
問診、長時間心電図、運動負荷心電図、冠動脈CT、心臓カテーテル検査、などで診断します。
治療
薬物療法、心臓カテーテル治療[風船治療やステント(筒状の網目の金属)留置術]、冠動脈バイパス術があります。
冠攣縮性狭心症
血管が一時的に痙攣して狭くなるタイプです。
症状の出方
狭心症の症状が主に安静時に起こります(典型例:早朝に胸が苦しくなり目が覚める)。
診断
問診、長時間心電図、心臓カテーテル検査、などで診断します。
治療
血管を拡張するお薬の内服を行います。
不安定狭心症
血管の中に血栓ができて詰まりかかっているタイプです。
症状の出方
狭心症の症状が労作時、安静時を問わず頻回に起こります。
診断
問診、血液検査(トロポニンT)、心電図でなされます。
治療
心筋梗塞になりかかっている非常に危険な状態であり、緊急でのカテーテル治療が必要です。

急性心筋梗塞

心臓を栄養する血管(冠動脈)が突然つまることで血液が流れなくなり、心筋細胞が壊死してしまう病気です。

原因

主に動脈硬化です。冠動脈の壁にプラーク(粥腫)と呼ばれる柔らかいコブができて、それが破れて急速にできた血栓により血管がつまり発症します。

症状

  • 狭心症と同様に胸痛、胸部圧迫感、などですが、狭心症では症状は長くても15分程度と短いのに対し、急性心筋梗塞では30分以上持続し安静にしても治まりません。
  • 前兆として、狭心症の症状が繰り返し起こったり頻度が増えたりする事(不安定狭心症)がよくみられますが、発症者の半分程度の方は、突然、急性心筋梗塞を起こされています。
※急性心筋梗塞では発症直後にみられる命に関わる不整脈を監視し、できるだけ早く冠動脈の血流を再開することが重要です。突然、胸痛を自覚し急性心筋梗塞を疑った場合には、躊躇せずに救急車を呼んで下さい。

診断

問診、血液検査(トロポニンT、CPK)、心電図、心エコー検査、心臓カテーテル検査、などで診断します。

治療

緊急での心臓カテーテル検査による血管拡張術[風船治療、ステント(筒状の網目の金属)留置術]が行われます。急性心筋梗塞は発症してから6時間以内に血流を再開できると、心筋細胞の壊死の範囲が小さくなることがわかっています。一方、治療が遅くなると壊死の範囲が大きくなり心臓の機能が低下し、その後の心不全の発症リスクが高まります。

閉塞性動脈硬化症

手足の動脈が狭くなったり詰まったりすることが原因で、手足の末梢に血液を十分に送り届けることができなくなる病気です。

原因

動脈硬化が原因です。

症状

閉塞性動脈硬化症は主に下肢(足)でみられ、進行の程度により症状はI度からIV度の4段階に分けられます。
  • I度:足のしびれや冷えを感じる程度で、全く症状がない場合もあります。
  • II度:少し歩いただけで足の痛みで歩けなくなり、少し休むと再び歩けるようになる症状[間欠性跛行(かんけつせいはこう)と呼ばれます]が見られます。
  • III度:安静にしていても痛みがみられるようになります。
  • IV度:小さな傷をきっかけに皮膚に潰瘍や壊死を起こすようになり、重症になると壊疽になり切断が必要になる場合があります。

診断

ABI(足首の最高血圧と上腕の最高血圧の比)測定、動脈エコー検査、造影CT検査、などで診断します。

治療

軽症では、禁煙指導、薬物療法、運動療法を行います。間欠性跛行が見られる場合、ライフスタイルに応じて血液の流れを良くする手術(血行再建術)を検討します。安静時痛や潰瘍・壊死がみられる場合には、血行再建術が必要です。血行再建術には、カテーテルによる治療[風船治療やステント(筒状の網目の金属)留置術]、血栓内膜摘除術、人工血管や静脈を用いたバイパス手術があります。

深部静脈血栓症・肺血栓塞栓症

主に足の静脈の中に血の塊(血栓)ができる病気です。
肺血栓塞栓症は、この血栓が外れて血液の流れに乗って肺の血管に詰まってします病気です。一般的に「エコノミークラス症候群」という名前で知られています。

原因

長期間の寝たきりの状態や長距離移動で座ったままの状態(血液の流れが悪くなる)、癌や遺伝性の血液異常、薬物、脱水などで血液が固まりやすい状態、腕や足の手術や怪我で静脈が傷ついた場合、などが原因となります。

症状

深部静脈血栓症
足のむくみ、痛み、発赤、などが見られます。自覚症状がない場合もあります。
肺血栓塞栓症
胸の痛み、呼吸困難感、冷汗、などが見られます。重症の場合には心肺停止の原因になることもあります。

診断

血液検査(Dダイマー)、静脈エコー検査、造影CT検査、などで診断します。

治療

点滴や内服薬で血液をサラサラにする治療(抗凝固療法)を行います。重症の場合、血栓を積極的に溶かす治療(血栓溶解療法)が行われます。足の静脈にできた血栓が肺に流れて行かないように、お腹の血管(下大静脈)の中にフィルターを置く治療がなされる場合もあります。

肺高血圧症

心臓から肺へ血液を送る血管(肺動脈)の血圧が高くなる病気です。

原因

肺高血圧症は原因により、第1~5群の5つのグループに分けられます。
第1群
肺動脈そのものに病変が起こる肺動脈性肺高血圧症(PAH)です。特定疾患(難病)に指定されています。
第2群
心臓の病気を原因とするものです。
第3群
肺の病気を原因とするものです
第4群
長期間(6ヶ月以上)肺動脈にできた血液の塊(血栓)を原因とする慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)です。特定疾患(難病)に指定されています。
第5群
その他の詳細が不明な多因子のメカニズムによるものです。

症状

  • 初期の段階では無症状のことが多いです。
  • 病気が進行すると労作時の息切れ、呼吸困難、易疲労感、動悸、胸の痛み、手足・顔面のむくみ、失神、などが見られるようになります。
  • 肺動脈の血液の流れが悪くなると、血液中の酸素濃度が低下します。

診断

心電図、レントゲン検査、心エコー検査、造影CT検査、肺の空気の出入りや血流を評価する検査(肺換気-血流シンチグラフィ)、呼吸機能検査、心臓カテーテル検査(右心カテーテル)、などで診断します。

治療

第1群
肺の血管を拡張するお薬(肺血管拡張薬)や利尿薬の内服、在宅酸素療法を行います。適応があれば、肺移植が検討されます。
第2群・第3群
基本的に原因となっている心臓、肺の病気の治療を行います。
第4群
血液をサラサラにするお薬(抗凝固薬)や肺の血管を拡張するお薬(肺血管拡張薬)、利尿薬の内服、在宅酸素療法を行います。適応があれば、カテーテルによる風船治療(経皮的肺動脈バルーン形成術)、器質化した血栓を内膜とともに摘出する手術(肺動脈血栓内膜摘除術)が行われます。

大動脈瘤・大動脈解離

大動脈は心臓から上方に向かって起始し、その後、弧を描いて下方に向かう太い血管です。大動脈は枝分かれしながら酸素を多く含む血液を全身の様々な組織に供給しています。

大動脈瘤

大動脈が「こぶ」のように病的にふくらむ病気です。全体的に膨らむ場合(紡錘状)と部分的にふくらむ場合(嚢状)があり、多くは紡錘状です。一般的に嚢状の方が破裂の危険性が高いとされています。

原因

主に動脈硬化が原因です。その他、外傷、炎症(大動脈炎)、遺伝(マルファン症候群)、感染、などがあります。喫煙、高血圧は動脈瘤のリスクを上昇させます。

症状

  • 自覚症状がないまま大きくなることがほとんどです。
  • 大動脈瘤が大きくなると神経を圧迫し、声が枯れたり(嗄声)や誤嚥が見られる場合があります。
  • 破裂が差し迫っていると胸や背中、お腹の痛み、血痰、などの前兆が見られることがあります。
  • 破裂すると、突然の胸や背中、お腹の激しい痛みを生じ、大量に出血してショック状態になり救命は困難です。

診断

腹部エコー検査やCT検査で偶然に発見され診断がなされます。

治療

紡錘状で大きさが破裂の危険性が低い場合、禁煙指導と血圧管理(130/80mmHg未満)を行い、定期的にCT検査で瘤の大きさをチェックし経過観察します。嚢状のものや破裂の危険性が高い大きさの紡錘状の大動脈瘤では、人工血管に置き換える手術や、瘤の中にカテーテルで人工血管を留置する治療(ステントグラフト内挿術)が検討されます。

大動脈解離

大動脈の内側に亀裂が入り、そこから血液が急激に流れ込んで壁が裂け、大動脈の壁が二つに分かれて偽腔という新しい空間ができる病気です。治療方針の決定のため、解離の部位により2つのタイプに分けられます(別に4つのタイプに分ける分類もあります)。
  • スタンフォードA型:上行大動脈(心臓から出てすぐの上方に向かう部位)に解離があるもの。
  • スタンフォードB型:上行大動脈に解離がないもの。

原因

最も一般的な原因は、長期間の高血圧による大動脈の壁の劣化です。その他、動脈硬化、加齢、外傷、遺伝性のもの(マルファン症候群)、などがあります。

症状

  • 多くの場合、突然の胸や背中の激痛を自覚します。また、解離の部位の広がりに伴い痛みが移動(胸から背中へ移動する痛み、など)するのが特徴です。
  • 大動脈弁閉鎖不全を生じることによる心不全や、心臓の周囲に血液がもれて膨らめなくなり血圧低下(心タンポナーデ)が見られる場合があります。
  • 大動脈から枝分かれする動脈の血流が障害され、その場所に応じた様々な症状(意識障害、麻痺、血圧の左右差、狭心症症状、心筋梗塞、腎不全、腹痛、腰痛、下血、など)が見られます。
※発症直後は破裂の危険性が非常に高い状態です。突然、胸や背中の激痛を自覚した場合には、躊躇せずに救急車を呼んで下さい。

診断

レントゲン検査、心電図、心エコー検査、造影CT検査、などで診断します。

治療

  • スタンフォードA型:命にかかわる合併症を生じやすいため、ほとんどが緊急手術(人工血管置換術)を必要とします。
  • スタンフォードB型:原則として内科的に治療(血圧および疼痛管理)します。破裂や血流障害などの合併症を認める場合には緊急手術を行うこともあります。
手術や内科的な治療により急性期を脱した後も、慢性期に大動脈瘤を生じて手術が必要になる場合があり、定期的なCT検査が必要です。